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大企業ではなく、個人や小さなチームが主催するイベントが、SNSやメディアで話題になることが多くなってきた。
僕は、彼らのことを「小さな主催者」と呼んでいる。
テクノロジーが進む一方で、人が集うことやリアルに体験することの重要性が注目される今、小さいからこそ新しい体験がつくれる「小さな主催者」の時代が来ていると思う。
そんな新しい時代の一面を知ってほしいという気持ちを込めて、本企画をスタートしました。
形式は、僕が気になる主催者に「ご飯をおごって、色々と話を聞く」スタイルでやっていきます。
第一回は、twitterトレンドにあがるクラブイベント「沈黙ダンス」を主催するDJ SHINDY。彼がやってきたことや、イベントをつくる時の考え方などを聞いてみました。
何がウケるかわからないから、とにかくやりまくった。
アフロマンス(以下、ア):まず、SHINDYがやっているイベントについて教えてもらえますか?「沈黙ダンス」をはじめ、色んなイベントをやっているよね。
DJ SHINDY(以下、S):そうですね、◯◯ダンスシリーズは色々やってます。
まず「沈黙ダンス」は、”クラブだけどしゃべっちゃいけない” というルールを課して楽しむイベントです。DJはもちろん、お客さんも、店員さんも、全員しゃべってはいけない。盛り上がっても声を出せなかったり、お酒を頼む時もジェスチャーや手書きで伝えたり…体験してみると、これが中々面白くて、月一でレギュラー開催しています。
他には「暗転ダンス」といって、アイマスクをつけて、自分だけの暗闇に浸って踊れるイベント。本当は、アフロさんがやってた真っ暗闇の中で踊るイベントがやりたかったんですが、安全管理上、アイマスクにしました。
あとは、出演者全員ロン毛の「ロン毛ダンス」や、ガチでボディメイクしてくれる育乳ブースもある「巨乳ダンス」もコラボで開催しました(笑)
「しゃべっちゃいけない」というルールが、独特の盛り上がりをつくる沈黙ダンス
ア:SHINDYのイベントはルールづくりで新しい体験をつくってるのが面白いよね。いい意味で、お金がかかってないというか。
S:まさに「小さな主催者」なので、お金ないですからね(笑)
他には「瞬間ダンス」といって、出演者は全員 “踊れるDJ” で、プレイ時間中に必ず1曲フル尺でかけて、お客さんと一緒に踊るイベント。これは一体感がすごかったです。
あと「クラブでカラオケ」というイベントは、カラオケで人気の曲をかけて、それに合わせて日本に数人いる “テロップジョッキー” の方が、その場で歌詞を出すというのもやりました。
ア:面白いね。ダンサー兼DJがお客さんと一緒に踊るとか、リアルタイムに歌詞を出すとか、クラブに行ったことがない人も楽しめるね。
ちなみに、こんなに色んなイベントをやるのは狙いがあるの?
S:正直「何がウケるかわからないからやりまくった」というのが本音です。
当初は、DJだけ集めて普通にイベントをやってたんですが、お客さんを誘うときにうまく説明できないことに気づいたんです。「DJイベントやるよ。ジャンルはオールミックス…」これ以上言うことがないし、これで行きたくなるのかな…という疑問というか。
そこで、お客さんにちゃんと届けるためには「テーマ」が必要だと気づきました。
そして初期に「初心者ディスコ」というイベントを始めました。あえて全員違うジャンルのDJを呼んで、クラブ初心者に音楽のジャンルを知ってもらえるイベントです。そんなテーマのあるイベントをやるようになりました。
ア:色んなイベントをやる中で、意識として変わったことはある?
S:色々経験する中で「自分たちがやりたいだけのイベント」から「お客さんが楽しめるイベント」をつくることに意識がシフトしていきました。とにかく “お客さんが楽しめるかどうか” をひたすら考えました。
ア:なるほど。以前、友人のラッパーのマチーデフが「売れるアーティストは、とにかく売れることを考え抜いてる人か、まったく考えてない人かのどちらか。中途半端な人はだいたい売れない。」って言ってて、どっちが正解はないけど、つくる基準を明確にすることが大事かもね。
S:これはDJの話ですが、若手DJに悩み相談される8割くらいは「どこまでフロアに合わせるべきか」という悩みなんです。僕は「自分」か「フロア」どっちかに振り切る必要はないと思ってて。ただ、自分のスタイルは「やりたいこと:フロアに合わせること=3:7」とか、はっきり軸を決めておくと、どんな時でもブレないのでいいと思っています。
お客さんに “参加している実感” を持ってもらう
ア:イベントをやるときに大事にしていることはある?
S:お客さん、出演者、お店が「三方良しになるイベント」というのは大事にしています。「それぞれの人に楽しんでもらえるか?」を考えて企画すること。どこかが欠けちゃうと続いていかない。
また、その中でも起点になるのは「お客さん」だと思っています。そこがないとパーティーが始まらないので。
ア:SHINDYと話していると、本当にお客さん目線でイベントを企画してるなーと思うんだけど、「対お客さん」という視点で考えていることはある?
S:最近は「お客さんにどう参加してもらうか」「どう当事者意識を持ってもらうか」というのを、すごく考えています。
例えば、沈黙ダンスは、会場内の全員が「参加者」になるイベントだと思っています。”しゃべっちゃいけない” というルールのお陰で、何をするにも普段とは違った行動を取らないといけない。そこが受け身ではなく参加の要素になっている。
沈黙ダンスでは「しゃべれないこと」が一種のゲームのようになっている。イベント中にtwitterで感想を言い合う人も多く、ツイートはリアルタイムでDJブースの背面に表示される。
ア:お客さんもイベントの一つの要素になっているって感じかな。
S:そうですね。「このイベントに参加している」っていう実感が大事かなと思います。ただ、参加要素を強くしすぎるのもダメで…
ア:突然「今から一人づつ自己紹介してもらいますー」とか?(笑)
S:それはイヤですね(笑)とはいえ、放置しすぎるのもダメ。「このイベントに参加してる」という実感と、「自分の好きに遊びたい」という自由度のバランス…そこが難しいんですけど。
ア:イベント規模の視点もありそうだね。大きなイベントだとそこまで気にしないけど、百人未満のイベントだと特に「行っていいイベントなのか」って気になる。
S:まさに。小さな主催者が、大きなイベントと同じ対応をすると失敗するっていう(笑)
ア:最近、同年代のイベント主催者が「今の若い人たちに来てもらう為には、どのメディアを使えばいいのかわからない」って悩んでる話を聞いて。
twitter?インスタ?LINE?みたいな。
でも、数十人〜百人くらいのイベント規模なら、どのメディアを使うかという手段の話より、「誰が何をしに来るイベントなのか」という設定の方を考えた方がいいと思う。そういう時に、参加性というのは重要になってくるね。
ポジティブな”違和感”が、話題をつくる
ア:ノウハウというか「話題になる企画のつくり方」みたいなものはある?
S:話題になる企画って、大きく2つの方向性があると思ってて。
一つは、圧倒的なコンテンツ力のある企画。
すごいアーティストが出るとか、すごい規模の体験ができるとか。最近、アフロさんが企画していた喰種レストランもこの方向だと思います。ある意味、正当な話題化。
もう一つは、違和感のある企画。
お客さんが思わず物申したくなるズレを企画する。沈黙ダンスがわかりやすいと思うんですが、「クラブイベントなのに、しゃべっちゃいけない」という話を聞くと、思わず何か言いたくなる感覚です。
「話題」の正体って何かというと「それについて何か言いたくなるかどうか」だと思っていて。僕は後者の違和感をうまく使って、お客さんの好奇心を揺さぶって、話題をつくっているのかなと思っています。
ア:アイディアのつくり方で、距離感のあるものをかけあわせる(例:マグロ解体ショー × ハウスミュージック=マグロハウス)って話をするんだけど、受け取るお客さんの気持ちを考えたら、まさしく「違和感」だね。
やっぱこれだね #沈黙ダンス pic.twitter.com/sKvhf5hmzk
— しぐは (@300km) 2018年12月17日
映像で見ても違和感を感じる沈黙ダンス。普通のイベントなら声を出すコール&レスポンスも沈黙を守らないといけない。
S:前者の「圧倒的なコンテンツ力」のイベントは、どうしてもお金がかかると思うんです。お金をかけずにどうやって話題をつくるかという時に、後者の「違和感をつくる」のは有効だと思っています。
ただ、デメリットもあって「ちょっと間違うと炎上する」可能性もあります。
例えば、沈黙ダンスは「クラブ=ナンパというイメージを払拭したい。純粋に音楽だけを楽しめる場をつくりたい。」という想いで企画したんですが、あまり考えずに「ウザいからクラブで声出すの禁止!」とか言っちゃうと、ネガティブな方向に話題が広がってしまうと思うんです。
違和感の中でも「ポジティプな違和感」をどうつくるかがポイントだと思います。
ア:面白いね。近い事例で、双子のラッパーP.O.Pがやっている「おごられナイト」を思い出した。名前の通り「自分が飲むお酒はオーダーできないけど、人におごることはできる。」ってイベントなんだけど、おごる・おごられるしかできない、というありえない違和感(笑)
そして、面白いのがめちゃめちゃお酒が出るらしいだよね。自分で飲むお酒には限界あるけど、人におごるなら所持金次第でいくらでもいけるという。そもそも「人におごる」という行為に、幸福感が含まれているのがポイントなんだけど、入り口は「違和感」、そして「特別なお金をかけずに、ルールで体験をつくる」ってのが似てるなと。
S:まさにそんな感覚です。違和感を生む「変化球」を考えるのは、頭を捻れば0円なので。小さな主催者にこそ、オススメですね。
最後に
ア:最後に「これからイベントをやろう!」という若者や、「イベントやっているけど、上手くいかない」という主催者へ、メッセージもらえますか?
S:「本気で考え抜くこと」です。
正直、イベント主催って、コスパが悪いと思うんですよ。ある日の数時間のために、数ヶ月間準備をする。やることも、企画からブッキング、運営、デザイン、箱との交渉…と領域も膨大で、それらを一人〜数人でやっている主催者も多いと思います。
そんな人たちって、情熱を燃やしてやっている人だと思うんです。
ただ、あえて言いたいのが「情熱だけじゃダメ」だということ。
ダルビッシュ選手が「練習は嘘をつかないって言葉があるけど、頭を使って練習しないと普通に嘘つくよ」って言ってたのをすごく覚えていて。
情熱があることは素晴らしいし、努力することも大事なんだけど、だからこそ「考え抜くこと」を怠ってはいけない。
お客さんのためにどうすればいいのか。
イベントをビジネスとして成立させるためにどうすればいいのか。
何が必要なのかを考え抜くことが、とても大事だと思います。
ア:ホームパーティー研究家のひでつうさんが「うまくいかない時は、大抵、足りないのではなく、多すぎる」ってよく言ってて。
沈黙ダンスも、何かを足したというより、しゃべることを取り除いた「引き算」の企画だと思う。そして「ひたすら頑張る」ではなく、「ひたすら考え抜く」ことでしか、引き算という選択肢は出てこない。
色んなイベントをやって、試行錯誤をやめないSHINDYらしいメッセージ、ありがとうございました!
都内だけでなく、全国で奮闘する「小さな主催者」の参考になれば幸いです。
DJ SHINDY twitter:https://twitter.com/phism
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