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大企業ではなく、個人や小さなチームが主催するイベントが、SNSやメディアで話題になることが多くなってきた。
僕は、彼らのことを「小さな主催者」と呼んでいる。
テクノロジーが進む一方で、人が集うことやリアルに体験することの重要性が注目される今、小さいからこそ新しい体験がつくれる「小さな主催者」の時代が来ていると思う。
そんな新しい時代の一面を知ってほしいという気持ちを込めて、本企画をスタートしました。
形式は、僕が気になる主催者に「ご飯をおごって、色々と話を聞く」スタイルでやっていきます。
第三回は、オールナイトの野外映画フェス「夜空と交差する森の映画祭」(以下、森の映画祭)を主催するサトウダイスケ。「森の映画祭」のこだわりから誕生のきっかけ、フェスを開催する上での組織論まで、色々と聞いてみました。
一晩限りの世界をつくりたい。
アフロマンス(以下、ア):まずは「森の映画祭」がどんなイベントなのか教えてもらえますか?
サトウダイスケ(以下、サ):一言でいうと「五感丸ごとで体験する野外映画フェス」ですね。
一晩限りの世界をつくろうと思っています。「ただ映画を流すイベント」にならないように、クリエイティブに力を入れています。
アーティストをコンテンツとすると、フェスはその為の「ただの箱」になりがちだと思っていて。僕はフェスという箱自体にエンターテイメント性が欲しいと思っています。
森の映画祭も「今年はあの映画を上映するから行く」じゃなくて、森の映画祭という枠組み自体が面白いから行くという流れにしたい。コンテンツに依存しない、そんなフェスを目指しています。
ア:なるほど。海外のフェスやパーティーは世界観を大事にしているものも多いけど、日本だとまだ少ないよね。
ちなみに、森の映画祭のテーマって毎年違うよね?結構がらっと変えるの?
サ:毎年、会場もテーマもパンフレットも全部変えます。
今年のテーマは絵本で、パンフレットもハードカバーの絵本をつくります。
各エリアの名称も絵本の名前になっていて、それぞれにストーリーがあります。そして空間も、そのテーマやストーリーにちなんだ世界観になってます。
テーマに合わせ、毎年まったく違ったテイストでつくる。2019年のテーマは絵本。詳細は公式サイトへ。
パンフレットも絵本のテーマに合わせて、まさに絵本の体裁で制作される。
ア:ちなみに毎年テーマを変える中で、森の映画祭を通しての世界観やテーマってあるの?
サ:ゲームで言うと、ファイナルファンタジーみたいにしたくて・・・毎回テーマやストーリーは変わるけど、チョコボみたいな固定のキャラクターがいたり、オールナイトで朝までやって、4つくらいのエリアが同時進行で映画を流して、という形は同じです。
ただ、それをどう表現するか、という部分は毎年変えます。
ア:ちなみに毎年変える理由は何かあるの?
サ:自分が飽きるからですね(笑)とにもかくにもルーティーンワークがダメで・・・でも、毎年会場を変えるのは実際大変です。会場との交渉や調整も大変ですし、場所によっては音出しの制限もあるし。
ア:イベントやってるからわかるけど、会場が変わると、設営から運営まで全部変わるからね・・・毎年運営変えるって冷静にやばいね。
サ:マゾですね(笑)ポケモンってゲームをやっていく中でエリアが変わっていくじゃないですか。世界観は一緒だけど、今度のエリアはここだ!って。森の映画祭も「今年のエリアはここだ!」ってやりたいんです。
ア:そんなに場所を転々として、リピーターはいるの?
サ:いますね。北海道から来てる方で、初回から今までフルで参戦している方もいます。毎回会場を変えて、お客さんを振り回してるんですけど・・・場所やコンテンツに依存せず、森の映画祭ブランドを楽しんでくれている人は増えています。
ア:イベントのアイデンティティ(同一性)って面白いよね。毎年、場所も違うし、流している映画も違う。それって同じイベントなのか?という話。同じイベントである理由は「森の映画祭というブランド」と「主催のサトウくん」しかない。
僕が泡パをやり始めた動機の一つに、出演者でしか差が出ない音楽イベントが世の中に多かったってのがあって。しかも、人気のアーティストほど、たくさんのイベントに出ているから、新しさも中々生まれない。出演者を除いた時に、アイデンティティが残らないパーティーはつまらないと思ったんだよね。
サ:とても似てます。真似できないことを目指している訳ではないんですが、圧倒的な個性を目指しています。
偶発的な映画との出会いの場をつくる。
ア:ちなみに、一番最初に「森の映画祭」をやろうと思ったきっかけは何なの?
サ:まず、そもそも野外映画祭がなかったのでやりたいと思ったのと、音楽のフェスはあるけど映画のフェスはないなと思ったのがきっかけです。
音楽フェスって、全然知らないアーティストを聞いてよかった、というのが生まれる場所だと思うんですよね。映画も「たまたま出会っちゃった」っていう瞬間があってもいいなと思って。
映画ってどうしても一直線で見るじゃないですか。映画館に行くにせよ、レンタルするにせよ、偶発性がないなと思っていて。もっとザッピングして欲しい。そういう場がまったくないのでやろうと思いました。
ア:わかるなぁ。ラーメン屋で毎月ブロックパーティーをやっている知り合いがいて。この間、DJで呼ばれて初めて行ったんだけど。
なぜ、クラブではなく、ラーメン屋でやるのか?
その理由の一つが、音楽やカルチャーとの偶発的な出会いを起こす場所をつくるって考え方なんだよね。
音楽に詳しい訳でもない、一般の人や中高生の場合、クラブは来ないけどラーメン屋で何かやってたらフラッと来てくれる。そこでカルチャーの交通事故を起こすって言ってた(笑)
サ:似てますね。ネットの映画配信サービスなども、ピンポイントで映画を見ようと思うと便利なんですが、目当てのものと周辺領域しか出てこない。
ア:デジタルで便利になるほど、未知なる映画とのランダムな出会いって難しくなっている。その解決策の一つとしてフェスがあるんだね。
一晩を通して、複数エリアで映画を上映することで、フェス特有の「偶発性の出会い」が生まれる場になっている
ア:ちなみに、映画との出会いという意味でいくと、フェスという形式へのこだわりはあるの?大きく年に1回やるのを、もう少し小型化して、年に数回やるとか、そういう可能性もある?
サ:年1回のフェスとしてやる理由は、自分にとってのスペシャル感を演出するためですね。お客さんにもそうだと思いますけど。量産はしたくないんですよね。
2〜3ヶ月に1回とかだと、ルーティーンワークになってしまう。年1回だと、僕らも本気を出して挑めるんです。
また、世界観を大事にしたいので、空間的な規模感も欲しい。会場内を歩いて移動するといった楽しみも欲しいですね。
結果的に、年に1回、2000〜3000人規模のフェスを基本にして、たまにスピンアウトをやったりするような形になっています。
そして、去年のこだわりが詰まったパンフレットの話へ…
サ:ちなみにこれが去年のパンフレットなんですけど、最初にもらった状態だとこんなにページ数なくて。
去年のテーマが「交差」だったんですが、人との出会いもある意味「交差」じゃないですか。
そこで、会場内の色んなエリアにページを設置したり、色んな人がページを持っているようにしたんです。参加者は会場を回って、設置されているのを見つけたり、人に話しかけたりするとページを足せる仕組みにしました。
人や場所から新しいページを集めるパンフレット。
結果的に、来場者全員が違うパンフレットになります。
ア:これはやばいね(笑)パンフレットにこれだけ力入れてるのがすごいし、効率とか完全に無視している感じがいいね。
サ:さらに参加者もHPからフォーマットをダウンロードして、自分のページをつくれるようにしました。
名刺交換ならぬ、ページ交換がイベント内で起こるんです。そして、同時に、パンフレットのページを全ページ集めるというのも不可能になります(笑)
ア:自分が行った場所、会った人など、イベントの体験を記録したようなパンフレットになるんだね。素敵なアイディアだなぁ。
各エリアに設置されているパンフレットのページ。内容もゲームだったり、切って組み立てると立体物ができるなど、ユニークなものばかり。
コアは少人数で、ディテールは皆に委ねる。
ア:パンフレットで足されるページの中身って、すごいパターンがあると思うけど、どうやって考えてるの?皆で?
サ:そのエリアの担当が考えています。自分のエリアにどういうのを置きたいかという感じで。
ただ、このコンセプトは一度やったので二度は絶対にやりません。「集める」ってのは面白かったんですけどね。
他にも、そのエリアに置いてある標識や、そのバックストーリーとかも各エリアの担当者が考えます。
ア:そこら辺の線引きは興味あるな。各ステージの装飾や映画のセレクトなど、どこまでをサトウくんが考えて、どこからを皆に委ねているのか。
サ:各ステージの装飾はまったく口出さないですね。安全か、安全じゃないかをチェックするくらいで。
各エリアのバックストーリーは一緒に考えますけど、そこから具体的なアイディアを広げるのは、むしろ皆にやって欲しいと思っています。
ア:面白いね。毎年のテーマはサトウくんが考えてるの?
サ:自分ともう一人の副代表の女の子、2人で考えて決めています。
ア:そこは皆で集まって考えるとかじゃないんだね?
サ:個人的な組織論があって。なるべくコアな考えは少人数で決めます。
森の映画祭チームはスクラップ&ビルドで、毎年解散します。そして、場所とテーマと日時が決まったら再募集をかけます。だから、テーマや場所に異議がある人はそもそも集まらないんです。
メインビジュアルと開催日時とメインのストーリーはこちらでつくって、エリアの名前とかは集まった皆と一緒に考えます。
スタッフ50名、当日スタッフを加えると150名のチームで、森の映画祭はできている
ア:なるほどね。映画のセレクトはどうしてるの?
サ:上映作品チームが3名いて、彼らがセレクトしています。
ア:(HPを見ながら)このイベントで流す映画は、サトウくんは全部見てるの?
サ:応募作品を含めると200作品以上あるんですが、全てに目を通しています。
ア:すごいね。映画も毎年変えるの?
サ:映画は絶対に被らせないですね。
あと、流行りものも流さないですね。よっぽどコンセプトに合えば別ですけど。
クリエイティブの順番を決めてて、コンセプトの後に追従する形で映画を決めているので、流行りものだからと流したりは絶対しないですね。
ア:こだわりがすごい。
会場の中には、コンセプトやエリアのストーリーから派生した様々なコンテンツを楽しむことができる
ア:サトウくんって本当に「つくり手発想」だよね。お客さんのためにつくるんじゃなくて、つくりたいからつくるって感じ。
サ:まったくもってそうですね。
ア:イベントやクリエイティブの世界って、答えがないじゃない。効率を求めると、面白いものってつくれないし。それってすごい大事な感覚だと思うんだよね。
みんな学校教育で正解・不正解の考え方を叩き込まれるんだよ。
イベントをつくる時も「どういう方程式があれば高得点を取れるのか?」と考えてしまう。
でも本来、イベントは白紙に絵を書くようなものだから、正解なんてないんだよね。
サ:一直線というか最短距離を探したがる人は多いですよね。
方程式に近いもので、森の映画祭をつくる時のフローチャートみたいなものは進行管理用につくっています。
毎回、イベントが終わった瞬間に、プロジェクトの開始から終了までのタスクやフローを書き出すんです。
最短距離を知りたい人って、そういうものを欲しがるんですけど、結局それを見たところで真似なんてできないんですよね。
ア:イベントが生まれる本質はそこじゃないもんね。もっと大事なのはこんな絵を書きたい、こんなイベントをやりたいって気持ち。
サ:この間、フェスをやりたいと相談してきた人がいて「とりあえず10人集めました!」と言ってきたんですね。
そもそも「フェスやりたい」ってのが謎だし、とりあえず10人集めても機能しないと思うんですよ。
何かやりたいイメージとか、企画があって、その為に必要な10人ならいいんだけど。
内容がない中で集められた10人って、向いてる方向がバラバラの人じゃないですか。後から同じ方向を向かせる方が難しいですからね。
最後に
ア:最後に悩めるイベント主催者に対して、メッセージはありますか?例えば、友達以上の人が集まらないとか、悩んでいる人は多いと思うんですが。
サ:うーん、自分はイベントを当てようと思ってやっていないです。
「森の映画祭」もここまで大きくなるとは思っていなかった。
次の創作としてゲームをつくっているんですが、本当に好きな人が10人できれば大成功だと思っています。
友達以上を呼びたいって人は何を目的にしてるのか?
友達がたくさん来るイベントでも充分素敵なんじゃないか。
今一度、自分に問い直して欲しい。
ア:確かに色んな人と話すと、イベントをなんとなくやっている人って結構多いですね。しかも、そういう人に限って、同じことを何回も繰り返して「うまくいかない!」って思っている人は多い気がします。
サ:色んな人に言うのがあって「ジェンガ理論」っていうですけど。
自分のやりたいことを出し切ってから、崩れないレベルで引き算をする。
転倒しないレベルで、引き算をして、残ったものが自分が本当にやりたいこと、要は「自分の芯」なんだと思うんです。
僕もやりたいことを広げすぎてモヤモヤした時に、引き算しまくって「何がコアだっけ?」「何がしたかったんだっけ?」と問い直したりします。
自分を問い直す時は、このジェンガ理論で考えてみるといいと思います。
ア:他所のジェンガを見て、同じように組んでも、それって本当に自分がやりたい形なのかはわからないってことですよね。
外から見えてるものをまんま真似しても意味ないというか。
サ:誰かが「シンプルは最初からシンプルを目指すものではなく、引き算した結果である。」って言ってて。
真似をする人はシンプルになった結果のみを求めるんだけど、過程あってこそのシンプルなんですよね。最終形だけを真似しても意味がない。
引き算の工程を経験しないと、何故それに行き着いたかの哲学がないから、ただの模倣になっています。
ア:引き算のプロセス。いいものをつくるのに重要な要素ですね。気づきのあるメッセージ、ありがとうございました。
twitter:https://twitter.com/Daisuke_Sato_
【イベント情報】(終了)
夜空と交差する森の映画祭 2019
2019.9.21(SAT) @静岡県沼津市 INN THE PARK
興味を持った人は是非体験してみてください。
公式サイト:http://portal.forest-movie-festival.jp/fmf2019.html
世の中に、もっとワクワクを。